はじめに
A2AとMCPは、エージェンティックAIの設計を考えるうえで重要な概念ですが、その役割や位置づけの違いが分かりにくいと感じる人も多いはずです。どちらもAIシステムの高度化を支える仕組みである一方、対象としているレイヤーや解決しようとしている課題は大きく異なります。
A2Aはエージェント同士の連携や分業を前提とした考え方であり、MCPはモデルと外部情報やツールを安全かつ一貫して接続するためのプロトコルです。本記事では、それぞれの基本的な仕組みを整理したうえで、特徴や違いを比較し、どんな場面で使い分けるべきかをわかりやすく解説します。エージェンティックAIを設計・導入する際の判断材料として役立つ内容をまとめます。
A2Aとは(Agent2Agent )
A2A(Agent2Agent)とは、複数のAIエージェントが相互に通信しながら協調してタスクを進めるための設計思想を指します。単一のAIモデルにすべての判断や処理を集約するのではなく、それぞれ役割をもったエージェント同士が情報を共有し、分業しながら目標達成を目指す点が特徴です。調査、判断、実行といった工程を役割別に分けることで、処理の柔軟性と拡張性を高められます。
A2Aの考え方は、Googleをはじめとする大規模AI研究組織やクラウド事業者の研究文脈で整理されるようになりました。特に大規模言語モデルを業務に組み込む動きが進んだ2023年以降、単体モデルでは複雑な業務フローや長期タスクに対応しきれないという課題が顕在化しました。この背景から、複数エージェントが連携して処理を進めるアーキテクチャが注目されるようになりました。
エージェンティックAIが扱う業務は年々高度化しており、判断と実行を一つのエージェントに集中させる設計には限界があります。A2Aは、こうした課題に対応するための基盤的な発想として位置づけられており、マルチエージェント構成を前提としたAIシステム設計において重要な役割を担っています。
A2Aの基本概念と目的
A2Aの基本概念は、エージェントを独立した主体として扱い、それぞれが役割を持って協力する点にあります。各エージェントは、情報収集、分析、判断、実行など特定の役割を担い、必要に応じて他のエージェントと連携します。これにより、単一のAIでは処理しきれない複雑なタスクを分解し、効率的に進められるようになります。
A2Aの目的は、業務全体をより柔軟かつ拡張性のある形で自動化することです。分業によって処理の見通しが良くなり、設計や改善もしやすくなります。また、役割ごとにエージェントを入れ替えたり追加したりできるため、要件変更への対応力も高まります。エージェンティックAIにおいて、A2Aはスケーラブルな設計を実現するための重要な考え方といえます。
A2Aにおけるエージェント間通信の仕組み
A2Aでは、エージェント間の通信がシステム全体の要となります。各エージェントは、メッセージやイベントを通じて情報をやり取りし、状況に応じて次の行動を決定します。この通信は単なるデータの受け渡しではなく、役割に応じた依頼や結果報告といった意味をもつやり取りとして設計されます。
たとえば、調査を担当するエージェントが情報を収集し、その結果を判断役のエージェントへ送信します。判断役は内容を評価したうえで、次に実行すべき指示を別のエージェントへ渡します。このような流れにより、処理が一方向に固定されず、状況に応じた柔軟な連携が可能になります。通信設計が適切であれば、エージェント同士の協調によって業務全体の精度と安定性を高められます。
マルチエージェントシステムとの関係
A2Aは、マルチエージェントシステムの考え方と密接に関係しています。マルチエージェントシステムとは、複数のエージェントがそれぞれ独立した判断主体として行動し、相互に影響を与えながら全体として目的を達成する仕組みを指します。A2Aは、その中でもエージェント同士の直接的な連携や通信に焦点を当てた設計思想といえます。
マルチエージェントシステムでは、役割分担や協調動作が前提となるため、エージェント間の情報共有や指示のやり取りが重要になります。A2Aは、このやり取りを中心に据え、分業型のAIシステムを成立させるための基盤として機能します。結果として、複雑な業務を小さな単位に分けて処理でき、全体の柔軟性や拡張性を高められます。
A2Aが注目される背景
A2Aが注目される背景には、エージェンティックAIの進化によって扱う業務が複雑化している点があります。単一のAIモデルにすべての判断と実行を任せる設計では、処理の見通しが悪くなり、改善や拡張が難しくなります。複数の工程や専門性が求められる業務では、分業による設計が現実的です。
また、業務内容の変化に柔軟に対応する必要性も高まっています。A2Aを採用することで、役割ごとにエージェントを入れ替えたり追加したりしやすくなり、システム全体を大きく作り直さずに対応できます。こうした柔軟性と拡張性が評価され、A2Aは実用的な設計アプローチとして関心を集めています。
A2Aの課題と注意点
A2Aには多くの利点がある一方で、設計や運用における課題も存在します。最も大きな課題は、エージェント間の通信設計が複雑になりやすい点です。やり取りのルールが整理されていないと、処理の流れが分かりにくくなり、デバッグや改善が難しくなります。
また、エージェント同士の判断が衝突したり、責任範囲が曖昧になったりする可能性もあります。どのエージェントが最終判断を担うのか、どの時点で人が介入するのかといった設計を明確にする必要があります。A2Aを導入する際は、分業のメリットだけでなく、管理や制御の観点を含めて設計することが重要です。
MCPとは(Model Context Protocol)
MCP(Model Context Protocol)とは、AIモデルと外部のデータやツール、システムを安全かつ一貫した方法で接続するためのプロトコルです。生成AIやエージェンティックAIの活用が進むにつれ、AIモデルがどの情報にアクセスし、どの文脈をもとに判断しているのかを明確に管理する必要性が高まっています。MCPは、こうした課題に対応するために、モデルと外部リソース間のやり取りを標準化する仕組みとして位置づけられています。
このMCPは、Anthropicが2024年11月に発表したプロトコルです。大規模言語モデルを実運用に組み込む際、外部データやツール連携が属人的かつ不透明になりやすいという背景がありました。MCPは、コンテキストの取得方法や権限管理を明確に定義することで、AIの挙動を安定させ、セキュリティやガバナンスを確保することを目的としています。
エージェンティックAIのように複数の判断や処理を連続しておこなう設計では、モデルが参照する情報の一貫性が重要になります。MCPは、その前提となる基盤として、AI運用の信頼性を支える役割を担っています。
MCPの基本概念と目的
MCPの基本概念は、AIモデルと外部の情報源やツールを明確なルールに基づいて接続する点にあります。従来は、モデルごとに独自の方法でデータ取得やツール連携がおこなわれることが多く、設計や管理が属人化しやすい状況でした。MCPは、こうした接続方法を共通化し、モデルが必要なコンテキストを安定して受け取れるようにします。
目的は、AIの判断精度と安全性を高めながら、開発や運用の負担を減らすことです。どの情報をどのタイミングでモデルに渡すかを整理することで、不要なデータアクセスや誤った参照を防げます。結果として、AIシステム全体の信頼性を向上させる役割を果たします。
MCPが解決しようとしている課題
MCPが解決しようとしている大きな課題は、コンテキスト管理の複雑さです。AIモデルが外部データやツールを利用する場合、情報の受け渡し方法が統一されていないと、挙動が不安定になりやすくなります。また、どのデータが参照されたのかを把握しにくく、トラブル時の原因特定も難しくなります。
MCPは、こうした問題に対して、コンテキストの取得や利用方法を整理します。モデルが利用できる情報を明示的に管理することで、意図しないデータ参照や権限逸脱を防ぎやすくなります。結果として、AIの動作を予測しやすくし、実運用に耐えうる設計を実現します。
MCPにおけるコンテキスト共有の仕組み
MCPにおけるコンテキスト共有の仕組みは、AIモデルが利用できる情報やツールを明示的に定義し、その受け渡しを一貫した方法でおこなう点にあります。モデルは、必要なデータや機能に直接アクセスするのではなく、MCPを介して提供されるコンテキストを参照します。これにより、どの情報がモデルの判断に使われているかを把握しやすくなります。
コンテキストは、データソースやツールの情報、状態データなどを含む形で管理されます。MCPを通じて共有されることで、モデルごとに異なる実装を避けられ、再利用性も高まります。また、アクセス範囲を制御しやすいため、セキュリティやガバナンスの観点でも有効です。安定したコンテキスト共有が、AIシステム全体の信頼性を支えます。
MCPとエージェンティックAIの関係
MCPは、エージェンティックAIを支える基盤技術の一つとして位置づけられます。エージェンティックAIは、判断や行動を自律的に進めるため、外部の情報やツールを継続的に利用します。その際、コンテキスト管理が不十分だと、判断の一貫性や安全性に問題が生じます。
MCPを用いることで、エージェンティックAIが利用できる情報や操作範囲を整理し、安定した動作を実現しやすくなります。エージェントの能力を拡張する役割を担いつつ、無制限なアクセスを防ぐ仕組みとして機能します。A2Aがエージェント間の連携を扱うのに対し、MCPはモデルと外部世界を結びつける役割を果たします。
MCPの導入メリットと制約
MCPを導入するメリットとして、まず挙げられるのはコンテキスト管理の標準化です。モデルと外部リソースの接続方法を統一できるため、開発や運用の効率が向上します。また、どの情報がモデルに渡されているかを把握しやすくなり、説明性や監査性の向上にもつながります。
一方で、MCPには前提条件や制約もあります。すべてのシステムがMCPに対応しているわけではなく、導入には一定の設計や実装が必要です。また、柔軟性を確保するためには、どのコンテキストを共有するかを慎重に設計する必要があります。メリットと制約を理解したうえで、適切な用途に適用することが重要です。
MCPとA2Aの特徴を比較

MCPとA2Aは、いずれもエージェンティックAIを構成する重要な要素ですが、役割や適用されるレイヤーは大きく異なります。A2Aはエージェント同士の連携を前提とした設計思想であり、MCPはモデルと外部リソースを安全に接続するための仕組みです。混同されがちですが、両者は解決しようとしている課題が異なります。
ここでは、それぞれの特徴を整理し、どんな違いがあるのかを明確にします。
A2Aの特徴
A2Aの最大の特徴は、複数のエージェントが独立した主体として連携し、分業によってタスクを進められる点にあります。各エージェントは特定の役割を持ち、必要に応じて他のエージェントと通信しながら判断や実行をおこないます。この分散的な設計により、複雑な業務を小さな単位に分解しやすくなります。
また、A2Aは拡張性に優れています。業務要件の変化に応じてエージェントを追加したり、役割を変更したりできるため、システム全体を大きく作り直す必要がありません。一方で、エージェント間の通信設計や責任範囲の整理が重要となり、設計の巧拙が運用の安定性に直結します。A2Aは、分業型のエージェンティックAIを実現するためのアーキテクチャ上の特徴を備えています。
MCPの特徴
MCPの特徴は、AIモデルと外部のデータやツールを接続する方法を標準化し、コンテキスト管理を安定させる点にあります。モデルがどの情報にアクセスできるかを明示的に制御できるため、意図しないデータ参照や権限逸脱を防ぎやすくなります。これは、実運用における安全性やガバナンスの観点で大きな利点です。
さらに、MCPは再利用性の高い設計を可能にします。複数のモデルやエージェントが同じプロトコルを通じて外部リソースを利用できるため、実装のばらつきを抑えられます。一方で、導入には一定の設計が必要であり、すべての環境で即座に使えるわけではありません。MCPは、モデルと外部世界を結びつける基盤としての特徴を持ち、エージェンティックAIの安定運用を支えます。
A2AとMCPの違いを比較
| A2A(Agent2Agent) | MCP(Model Context Protocol) | |
| 主な役割 | エージェント同士の連携・協調 | モデルと外部リソースの接続 |
| 対象 | エージェント間の関係性 | モデルとコンテキスト |
| 位置づけ | アーキテクチャ設計の考え方 | プロトコル・接続仕様 |
| 解決する課題 | 分業・協調による複雑業務の処理 | コンテキスト管理の標準化 |
| 中心となる要素 | 役割分担・通信・協調動作 | データ・ツール・状態の共有 |
| 柔軟性 | 高い(エージェント追加や役割変更が容易) | 高いが設計ルールに依存 |
| 管理のしやすさ | 設計次第で複雑化しやすい | 一貫性を保ちやすい |
| 向いている用途 | 分業型・協調型AIシステム | 安定した外部連携が必要なAI |
| エージェンティックAIとの関係 | 行動や判断の分担を担う | 判断に必要な情報基盤を担う |
| 競合関係 | 競合しない | 競合しない |
MCPとA2Aの違いを理解するうえで重要なのは、両者が扱う対象と役割のレイヤーが異なる点です。A2Aはエージェント同士の連携や分業を前提とした設計思想であり、複数のエージェントがどのように協調してタスクを進めるかに焦点を当てています。一方、MCPはAIモデルと外部のデータやツールをどのように安全かつ一貫して接続するかを定義する仕組みです。
A2Aでは、役割を持ったエージェント同士が通信しながら判断と実行を分担します。そのため、業務全体の構造設計やエージェント間の関係性が重要になります。複雑な業務を分解し、柔軟に拡張できる点が強みですが、通信設計や責任範囲の整理が不十分だと運用が難しくなります。設計の自由度が高い分、管理の難易度も上がります。
これに対してMCPは、モデルが利用できるコンテキストを明確に管理し、外部リソースとの接続方法を標準化します。モデルやエージェントが増えても、同じルールで情報共有ができるため、安定した運用を実現しやすくなります。ただし、MCP自体はエージェント同士の協調や分業を直接扱うものではありません。
このように、A2Aはエージェント間の関係性を設計するための考え方であり、MCPはモデルと外部世界をつなぐ基盤です。両者は競合する概念ではなく、組み合わせることでエージェンティックAIの設計と運用をより安定させる役割を果たします。
A2AとMCPはどちらを選ぶべきか?
MCPとA2Aは目的や役割が異なるため、単純に優劣で選ぶものではありません。どちらを採用すべきかは、解決したい課題がエージェント同士の協調にあるのか、それともモデルと外部情報の接続にあるのかによって判断が分かれます。システム全体の設計段階で、どのレイヤーを強化したいのかを整理することが重要です。ここでは、それぞれが適しているケースを具体的に見ていきます。
A2Aが向くケース

A2Aが向いているのは、複数のエージェントによる分業や協調が必要なシステムです。業務が複雑で、一つのAIにすべての判断と実行を任せると設計や運用が難しくなる場合、A2Aの考え方が有効になります。たとえば、調査、分析、判断、実行といった工程を役割ごとに分け、それぞれを独立したエージェントに担当させたいケースです。
また、業務要件の変化が頻繁に起こる環境でもA2Aは適しています。役割単位でエージェントを追加・差し替えできるため、全体を作り直さずに対応できます。一方で、エージェント間通信や責任範囲の設計が重要になるため、アーキテクチャ設計に一定の知識が求められます。分業型のエージェンティックAIを構築したい場合に、A2Aは有力な選択肢です。
MCPが向くケース

MCPが向いているのは、AIモデルが外部データやツールを安定して利用する必要があるケースです。業務システムやデータベース、APIなどと連携する場面では、どの情報をモデルに渡すかを明確に管理しなければ、挙動が不安定になります。MCPは、こうしたコンテキスト管理を標準化し、安全性と一貫性を確保したい場合に適しています。
特に、複数のモデルやエージェントが同じ外部リソースを利用する環境では、MCPの導入効果が高まります。接続方法を統一できるため、開発や運用の負担を抑えられます。一方で、MCPは分業や協調の仕組みそのものを提供するものではありません。情報共有の基盤を整えたい場合に適した選択肢といえます。
MCPとA2Aは競合ではない
MCPとA2Aは、同じ課題を解決する技術ではなく、役割の異なるレイヤーを担っています。A2Aはエージェント同士の関係性や分業構造を設計する考え方であり、MCPはモデルと外部世界をつなぐための基盤です。そのため、どちらか一方を選ぶというよりも、組み合わせて使う前提で考える方が現実的です。
A2Aによって分業型のエージェント構成を設計し、MCPによって安全で一貫したコンテキスト共有を支えることで、エージェンティックAIの安定性と拡張性を高められます。両者を適切に使い分けることが、実運用における重要なポイントとなります。
まとめ
A2AとMCPは、エージェンティックAIを設計するうえで混同されやすい概念ですが、役割や位置づけは明確に異なります。A2Aはエージェント同士の連携や分業を前提としたアーキテクチャの考え方であり、複雑な業務を協調的に処理するための枠組みです。一方、MCPはモデルと外部データやツールを安全かつ一貫した方法で接続するための基盤となる仕組みです。
どちらが優れているかではなく、解決したい課題がどのレイヤーにあるかを見極めることが重要です。分業構造を重視するならA2A、安定したコンテキスト管理を重視するならMCPが有効となります。実運用では両者を組み合わせることで、柔軟性と安全性を両立したエージェンティックAIの設計が可能になります。







