近年、クロスプラットフォーム アプリ開発はモバイルアプリケーションを構築するうえで、非常に一般的なとなっております。クロスプラットフォーム、またはマルチプラットフォームのアプローチを採用することで、開発者は単一のコードベースを用い、さまざまなモバイルプラットフォームに対応したアプリケーションを一貫した動作で作成することが可能です。
こうしたクロスプラットフォーム ソリューションの需要の高まりに伴い、多くの優れたクロスプラットフォームツールが登場しました。しかし、選択肢が増えるほど、プロジェクトに最適なツールを選び出すことが難しいと感じることもあるかもしれません。そこで、皆さまの選択をよりスムーズにするために、クロスプラットフォーム アプリ開発フレームワークの中から特に優れた5つのツールを厳選し、それぞれの特徴と最適な利用シーンについてご紹介いたします。効率的かつコスト面でも効果的なソリューションを見つけるため、ぜひ最後までお読みください。
本記事には、ビジネス向けにクロスプラットフォームフレームワークを選定する際に考慮すべき重要なポイントについてもご案内します。
クロスプラットフォームフレームワークとは
Instagram、Skype、Google Ads、Netflix、Tesla ― これらのアプリにはある共通点があります。それは、すべてがクロスプラットフォーム開発フレームワークを活用して作られているという点です。このアプローチが自社のアプリ開発にも有効なのではないかとお考えではありませんか?その答えは「もちろん可能です」。ここからは、どのように活用できるのかについて詳しく見ていきましょう。
モバイルエンジニアは、クロスプラットフォームのモバイル開発フレームワークを使用することで、AndroidやiOSなど複数のプラットフォーム向けにアプリケーションを構築できます。このアプローチの大きなメリットのひとつは、共有可能な単一のコードベースを活用できる点です。1つのコードベースを使用することで、OSごとにコードを書き直す手間を省き、開発プロセスを効率化し、スピードアップさせることが可能になります。
クロスプラットフォームフレームワークとは、1つのコードベースを用いて複数のOS向けモバイルアプリを構築できる専用のツールキットです。代表的なフレームワークには、Flutter、React Native、Kotlin Multiplatform、Ionicなどがあり、これらについては記事の中で詳しくご紹介いたします。
なぜクロスプラットフォームソリューションが注目を集めているのでしょうか?
アプリ開発において、クロスプラットフォーム フレームワークの人気が高まっているのは当然のことと言えるでしょう。クロスプラットフォーム フレームワークは、現代のアプリ戦略が目指す目標に完全に合致する、数多くの魅力的な利点を提供しています。
これらのメリットにより、クロスプラットフォームソリューションは単なる実用的な選択肢にとどまらず、急速に変化するアプリ市場においてますます多くの企業や開発者から選ばれる、理想的な選択肢となっています。
人気のクロスプラットフォームフレームワーク5選の比較
クロスプラットフォームアプリ開発の世界には、さまざまなフレームワークが存在しています。重要なのは、すべての人にとって最適な万能ツールは存在しないという点です。フレームワークの選択は、特定のプロジェクトの特性や目標、そしてこの記事の最後でご紹介するさまざまな要素に大きく依存します。
フレームワーク名 | プログラミング言語 | 開発されたアプリ | 特徴 |
Flutter | Dart | Google Ads、myBMW、The New York Times | 単一のコードベース、ホットリロード、ネイティブレベルのパフォーマンス、オープンソースコミュニティ、プラットフォーム固有のUI適応 |
React Native | JavaScript | Instagram、Meta Ads Manager、Skype、Bloomberg | コードの再利用性、ホットリロード、ネイティブコンポーネント対応、大規模なコミュニティ、高パフォーマンス |
Ionic | HTML、CSS、JavaScript | T-Mobile、Untappd、MarketWatch | Webテクノロジーの活用、UIツールキット、Cordova/Capacitorとの統合 |
Kotlin Multiplatform | Kotlin | Google Docs、Netflix、McDonald’s | プラットフォーム固有のAPIとライブラリへのフルアクセス、共有コードベース、ネイティブUI、既存のAndroid/iOSアプリとのシームレス統合 |
.NET MAUI | C#、XAML | NBC Sports Next, Escola Agil | C#による直感的なUI実装、レンダリング速度の改善、ホットリロード機能 |
1. Flutter
GoogleのオープンソースUI開発フレームワークであるFlutterは、2017年5月に初めて登場し、2018年12月のGoogle I/Oカンファレンスで正式にリリースされました。それ以来、Flutterは、iOS、Android、Windows、macOS、Linux、組み込みデバイスなど、幅広いプラットフォームにおいてネイティブコンパイルされたアプリケーションをシームレスに構築できる「単一のコードベースアプローチ」を提供することで、主要なマルチプラットフォーム技術へと成長しています。
プログラミング言語:Flutterアプリは、主にDartプログラミング言語を用いて開発されます。Dartは効率性とパフォーマンスの高さで知られ、モバイルアプリ開発に最適な言語として選ばれています。
Flutterで開発されたアプリの例:Google Ads、myBMW、The New York Timesなど
主な機能:
- 単一のコードベース: Flutterを使用することで、開発者はAndroid、iOS、ウェブ、デスクトップなど複数のプラットフォームで動作する単一のコードベースを作成できます。これにより、開発時間と労力が大幅に削減され、効率的なアプリ開発が可能になります。
- ホットリロード: Flutterの最も優れた機能の一つに「ホットリロード」があります。この機能により、開発者はアプリを再起動することなくコード変更の影響を即座に確認できるため、開発プロセスのスピードが大幅に向上します。
- パフォーマンス: Dartの事前(AOT)コンパイルとFlutterのネイティブコードの使用により、ネイティブアプリケーションと同等の高いパフォーマンスを持つアプリ開発が可能です。
- オープンソースとコミュニティ主導: Flutterはオープンソースであり、大規模で活発な開発者コミュニティのサポートを受けています。これにより、継続的な改善、十分なサポート、豊富なプラグインとパッケージの利用が保証されています。
- プラットフォーム固有の適応: Flutterを使用することで、開発者はアプリの見た目や動作を各プラットフォームのデザインガイドラインに合わせてカスタマイズでき、ネイティブと同様の外観と操作性が実現します。
2. React Native
React Nativeは、Meta(旧Facebook)によって開発されたオープンソースのモバイルアプリケーションフレームワークです。2015年3月に初めてリリースされて以来、クロスプラットフォームモバイルアプリケーションを構築するためのフレームワークとして、非常に高い人気を誇るようになりました。2024年のStack Overflow開発者調査によると、React NativeはFlutterに次いで人気のある選択肢の一つとされています。
プログラミング言語:React Nativeは主にJavaScriptを使用しますが、バージョン0.71以降、JavaScriptの厳密に型指定されたスーパーセットであるTypeScriptがフレームワークのデフォルト言語となりました。Reactライブラリを組み込むことで、ユーザーインターフェイスの構築が容易になり、開発効率の向上にも貢献しています。
React Nativeで開発されたアプリの例:Instagram、Meta Ads Manager、Skype、Bloombergなど
主な機能:
- 再利用性:React Nativeは、AndroidおよびiOSプラットフォーム間でコードの再利用が可能であり、開発時間と労力の大幅な削減に寄与します。
- ホットリロード:Flutterと同様に、React Nativeもホットリロード機能をサポートしており、開発者はアプリを再起動せずにリアルタイムでコード変更の反映を確認でき、開発プロセスの効率が向上します。
- ネイティブコンポーネント:このフレームワークはネイティブコンポーネントへのアクセスも提供しており、アプリの見た目や操作感をネイティブアプリと同等の水準に保つことができます。
- 大規模なコミュニティ:React Nativeは、広大かつ活発な開発者コミュニティを有しており、豊富なライブラリやプラグイン、リソースが揃っているため、開発サポートが充実しています。
- パフォーマンス:完全にネイティブで開発されたアプリほどのパフォーマンスには及ばないものの、React Nativeは特に一般的なモバイルアプリケーションにおいて、優れたパフォーマンスを発揮します。
3. Ionic
Ionicは、2013年にリリースされたクロスプラットフォームのモバイルおよびデスクトップアプリケーションを作成するためのオープンソースのUIツールキットです。HTML、CSS、JavaScriptといったWeb技術を活用してハイブリッドアプリを開発できるうえ、Angular、React、Vueフレームワークとシームレスに統合できる点で人気を集めています。
プログラミング言語:開発者は、Ionicを使用してアプリケーションを構築する際に、主にHTML、CSS、JavaScript(またはTypeScript)を用いて作業を行います。
Ionicで開発されたアプリの例:T-Mobile、Untappd、MarketWatchなど
主な機能:
- Webテクノロジー: Ionicを使用することで、開発者はWeb開発のスキルを活かし、クロスプラットフォームのアプリケーションを構築できます。
- UIツールキット: Ionicは豊富でレスポンシブなUIコンポーネントのコレクション(UIツールキット)を提供しており、小さなスマートフォンからPCの大画面ブラウザまで、適切にスケーリングされるUIを持つアプリケーションの構築が可能です。
- CordovaとCapacitorの統合: Ionicは、Apache CordovaおよびCapacitorプラグインとシームレスに統合されており、ネイティブデバイスの機能にもアクセスできます。
4. Kotlin Multiplatform
JetBrainsが開発したKotlin Multiplatformは、Android、iOS、Web、デスクトップ、サーバーサイドアプリケーション向けにコンパイル可能な共有Kotlinコードの記述を可能にする、多用途なクロスプラットフォーム フレームワークです。2017年の導入以来、特にモバイル開発分野で大きな進歩を遂げています。Kotlin Multiplatformは、FlutterやReact Nativeほどの普及度はないものの、Google、McDonald’s、Netflixなどの業界大手から高い支持を受けています。
プログラミング言語:Kotlin Multiplatformで使用される言語であるKotlinは、その簡潔性、安全性、そしてJavaとの高い相互運用性で広く知られています。
Kotlin Multiplatformで開発されたアプリの例:Google Docs、Netflix、McDonald’s
主な機能:
- プラットフォーム固有のAPIとライブラリへの完全なアクセス:Kotlin Multiplatformは、他のクロスプラットフォームアプリ開発フレームワークのようにパッケージの範囲に制限されることなく、ネイティブテクノロジーを自由に使用し、Kotlin Multiplatformモジュールと組み合わせることが可能です。このため、ARなどのネイティブソリューションに大きく依存するアプリケーションにも適しています。
- 共有コードベース:Kotlin Multiplatformを使用すると、プラットフォーム間でコードを共有できるため、重複やメンテナンスの負担が軽減されます。
- ネイティブUI:他のクロスプラットフォーム フレームワークとは異なり、Kotlin MultiplatformはUIレイヤーを完全には抽象化せず、プラットフォーム固有のUI実装を可能にします。そのため、SwiftUIやJetpack Composeなどの最新UIフレームワークを使用することができます。
- 相互運用性:Kotlinで記述された共有コードは、既存のAndroidおよびiOSアプリケーションとシームレスに統合でき、高い相互運用性を発揮します。
5. .NET MAUI
.NET MAUIは、2022年にMicrosoftがリリースした、モバイルおよびデスクトップアプリケーション開発向けのフレームワークです。以前提供されていたXamarinのサポートが2024年5月1日をもって終了することに伴い、その後継として登場しました。
プログラミング言語: .NET MAUIでは、主にC#とXAMLを使用して、Android、iOS、macOS、Windowsで動作するアプリケーションを開発することができます。
.NET MAUIで開発されたアプリの例:NBC Sports Next, Escola Agil
主な機能:
- .NET MAUIは、**C#**を用いてユーザーインターフェイス(UI)の実装が可能で、直感的かつシンプルなコード記述を実現しています。これにより、開発者は効率的かつ簡潔にUIを構築することができます。
- Xamarinで課題とされていたレンダリング速度の遅さも改善されており、より快適な処理速度でのアプリ開発が可能になりました。
- ホットリロード機能を搭載しており、プログラムの変更をリアルタイムで反映・確認できるため、開発プロセスのスピードと効率を大幅に向上させます。
クロスプラットフォームフレームワークを選定する際に注意すべきのポイント
上記以外にも多くのクロスプラットフォーム フレームワークが存在し、新しいツールも市場に次々と登場しています。そのため、幅広い選択肢の中から次のプロジェクトに最適なものを見つけることが必要です。まず第一のステップとして、プロジェクトの要件と目標を十分に理解し、将来のアプリケーションの理想像を明確にすることが大切です。そして、その上で次の重要な要素を考慮し、ビジネスにとって最も適したフレームワークを選定することが求められます。
1. 開発チームの専門知識
さまざまなクロスプラットフォーム・モバイル開発フレームワークは、それぞれ異なるプログラミング言語に基づいています。そのため、フレームワークを導入する前に、プロジェクトに必要なスキルセットを確認し、モバイルエンジニアチームがそのフレームワークを扱うのに十分な知識と経験を持っていることを確かめることが重要です。
たとえば、チームに高度なスキルを持つDartの開発者が在籍しており、新しい技術を導入するためのリソースが限られている場合には、Flutterなど、Dartを使用するフレームワークを選択することが有益かもしれません。
2. UIのカスタマイズ
将来のアプリにおいてユーザーインターフェース(UI)の重要度がどの程度かによって、特定のフレームワークでUIをどのように、またどれほど簡単にカスタマイズできるかを理解しておくことが求められるでしょう。たとえば、Kotlin Multiplatformは、最新の宣言型クロスプラットフォームUIフレームワークであるCompose Multiplatformを使用することで、柔軟なコード共有を実現しています。このため、開発者はKotlinおよびJetpack Composeをベースに、Android、iOS、Web、デスクトップ(JVM経由)間でUIを共有することが可能です。
3. フレームワークの機能
各フレームワークにはそれぞれ独自の機能と制限があるため、フレームワークが提供する機能やツールを理解することは、最適なソリューションを見つけるうえで非常に重要です。たとえば、コードアナライザーやユニットテスト用のフレームワークが備わっているかどうか、またアプリのビルドやデバッグ、テストがどの程度迅速かつ容易に行えるかなどが、検討すべき要素に含まれます。
4. セキュリティ
セキュリティとプライバシーは、特に決済システムを含む銀行や電子商取引アプリなど、ビジネス用途の重要なモバイルアプリを構築する際に、特に重視すべき要素です。OWASP Mobile Top 10によると、モバイルアプリケーションにおける重大なセキュリティリスクとして、安全でないデータストレージや認証・承認の脆弱性が挙げられています。
そのため、選定したマルチプラットフォームのモバイル開発フレームワークが必要とされるセキュリティレベルを提供しているかどうかを確認することが重要です。この確認方法の一つとして、フレームワークの問題追跡ツールで公開されているセキュリティ関連のチケットを参照することが挙げられます。
まとめ
これらの要素を考慮しなければ、特定のニーズに最適なクロスプラットフォームのモバイル開発フレームワークを選ぶことは難しくなります。将来のアプリケーション要件を詳細に検討し、さまざまなフレームワークの機能を比較することが重要です。こうすることで、高品質のアプリを提供するために役立つ適切なクロスプラットフォームソリューションを見つけることができるでしょう。