はじめに
AWSでAI・機械学習の開発を検討すると、必ずと言っていいほど「Amazon BedrockとAmazon SageMakerのどちらを使えばいいのか」という問いに突き当たります。どちらもAWSが提供するAI関連の主要サービスでありながら、目的・対象ユーザー・料金体系・必要な専門知識が大きく異なります。
AWS公式のドキュメント「Amazon BedrockまたはAmazon SageMaker AI?(Decision Guide)」でも、両サービスは「どちらもMLおよび生成AIアプリケーションの開発を可能にするが、さまざまな目的を果たす」と明記されています。両者の違いを正しく理解して選択することが、AI活用の成否を分ける第一歩です。
本記事では、AWS公式情報をもとに両サービスの概要・機能・違いを整理し、自社に合った選択の判断基準を解説します。
Amazon Bedrockとは
Amazon Bedrockとは、生成AIアプリケーションやエージェントの構築に適した、包括的でセキュアかつ柔軟なフルマネージドプラットフォームです。AWS公式サイトでは「先駆的な基盤モデル(FM)、エージェントをデプロイおよび運用するためのサービス、モデルのファインチューニング、保護、最適化のためのツール、アプリケーションを最新のデータに接続するためのナレッジベースを提供する」と説明されています。
2023年のサービス開始以来、世界で数万の企業が生成AI戦略の基盤として採用しています。
※ 関連記事: Amazon Bedrockとは?特徴・基盤モデル・料金・活用事例3選までわかりやすく解説
Amazon Bedrockで利用できる主な基盤モデル
Amazon Bedrockの最大の特徴は、複数のAI企業が提供する多様な基盤モデルに単一のAPIでアクセスできる点です。AWS公式ドキュメントが示す対応モデルには以下が含まれます(サポートモデルは定期的に更新されます)。
- Amazon Nova(Amazon独自の最新世代基盤モデル群。Nova Micro・Nova Lite・Nova Pro・Nova Canvas・Nova Reelなど)
- Amazon Titan
- Anthropic Claude
- DeepSeek-R1
- Cohere Command & Embed
- AI21 Labs Jurassic
- Meta Llama
- Mistral AI
- Stable Diffusion XL
さらにAmazon Bedrock Marketplaceでは、100を超える独自の特殊な基盤モデルを検出・テスト・使用することができます。
Amazon Bedrockの主な機能
モデルの選択とAPI統合 数百の基盤モデルにアクセスし、パフォーマンスとコストのニーズに応じて最適なモデルを選択できます。APIコールを通じて既存のアプリケーションに簡単に統合できます。
データを活用したカスタマイズ ナレッジベース(RAG)・プロンプトエンジニアリング・ファインチューニング・Bedrock Data Automationなど複数のカスタマイズ手段を提供しており、汎用モデルを自社ビジネスに最適化できます。
セキュリティとガードレール Bedrock GuardrailsはAWS公式によると有害コンテンツを最大88%ブロックし、モデルのトレーニングにデータを使用することなく、転送中・保存中のデータを暗号化します。ISO・SOC・GDPR・FedRAMP High・HIPAAなど主要なコンプライアンス基準に対応しています。
コスト最適化 モデル蒸留・プロンプトキャッシュ・インテリジェントプロンプトルーティングなどの機能を提供しています。AWS公式によると、インテリジェントプロンプトルーティングは質を維持しながらコストを最大30%削減できるとされています。
AIエージェントの構築 Amazon Bedrock エージェント・Bedrock Flows・Bedrock AgentCoreなどのツール群で、複数ステップのタスクを自律実行するAIエージェントを構築・デプロイできます。
Amazon Bedrockの料金体系
Amazon Bedrockの料金は、サービスに対して行われたAPIコールの数(トークン数)に基づくPay-as-you-goです。オンデマンド料金・バッチ処理・プロビジョンドスループットの3つの推論オプションがあります。最新の料金はAWS公式料金ページでご確認ください。
Amazon SageMakerとは
Amazon SageMaker AI(旧称:Amazon SageMaker)は、機械学習モデルを大規模に構築・トレーニング・デプロイするために設計されたフルマネージドサービスです。AWS公式ドキュメントでは「ノートブック、デバッガー、プロファイラー、パイプライン、MLOpsなどのツールを使用して、基盤モデルをゼロから構築することが含まれる」と説明されています。
2024年12月のAWS re:Invent 2024において次世代プラットフォームとして大幅に刷新され、現在のAmazon SageMakerはSageMaker AI・SageMaker Unified Studio・SageMaker Lakehouse・SageMaker Canvasなどを内包する統合プラットフォームです。
※ 関連記事: Amazon SageMakerとは?機能・料金・活用事例3選をわかりやすく解説
Amazon SageMaker AIの主な構成要素
AWS公式ドキュメントによると、現在のAmazon SageMakerは以下の要素で構成されています。
- SageMaker AI:MLモデルの構築・学習・デプロイを担うコア機能(旧SageMakerの主要機能を継承)
- SageMaker Unified Studio:AWSのデータ・分析・AI・MLサービスを組み合わせた統合開発環境
- SageMaker Lakehouse:S3・Redshift・外部データを統合するデータレイクハウス
- SageMaker Canvas:ノーコードでMLモデルを構築できるビジュアルツール
- SageMaker HyperPod:LLMなど大規模モデルのトレーニングに特化したクラスター管理サービス
Amazon SageMakerの主な機能
MLモデルの構築・実験 JupyterLabベースのSageMaker Studioで、TensorFlow・PyTorch・scikit-learnなど主要なMLフレームワークを使ってモデルを開発できます。
大規模分散トレーニング SageMaker TrainingはGPUクラスターを自動スケールし、大規模モデルのトレーニングをフルマネージドで実行します。トレーニング完了後はインスタンスが自動解放されるため、コストの管理がしやすい構造になっています。
ノーコードMLと自動化(AutoML) SageMaker Canvasのノーコードツールとオートメーション機能で、専門知識がなくてもMLモデルを構築できます。
MLOps・モデル管理 SageMaker Pipelines(CI/CDパイプライン)・SageMaker Model Monitor(本番モデルの監視)・SageMaker Clarify(バイアス検出・説明性分析)など、MLライフサイクル全体を管理するMLOpsツールが充実しています。
Amazon SageMakerの料金体系
Amazon SageMaker AIの料金は、コンピューティングリソース・ストレージ・その他サービスの使用量に基づく従量課金です。申し込み後最初の2ヶ月は無料枠があります。また、1年または3年の使用量確約と引き換えにコスト削減が可能なSavings Plansも提供されています。最新の料金はAWS公式料金ページでご確認ください。
参考:Amazon SageMaker AI 料金(AWS公式)
Amazon BedrockとAmazon SageMakerの違いを比較
AWS公式の決定ガイド(Decision Guide)をもとに、Amazon BedrockとAmazon SageMakerの違いを整理します。
AWSのAI階層における位置付け
AWS公式ドキュメントは、AWSのAIスタックを3層で以下のように定義しています。
- 最上層:Amazon QなどのAI活用サービス(生産性を向上させるアプリケーション)
- 中間層:Amazon Bedrock(生成AIアプリケーションを構築するためのモデルとツール)
- 下層:Amazon SageMaker AI(AIモデルを構築およびトレーニングするためのインフラストラクチャ)
この整理が示す通り、BedrockはAIを「使う・組み込む」サービスであり、SageMaker AIはAIモデルを「作る・鍛える」インフラです。
主要項目の比較表
AWS公式の決定ガイドに記載されている内容をもとに比較します。
| 比較項目 | Amazon Bedrock | Amazon SageMaker AI |
|---|---|---|
| 主なユースケース | カスタムモデル開発に多額の投資をすることなく、AI機能をアプリケーションに統合するのに最適 | カスタムモデルを必要とする可能性のある、独自または特殊なAI/MLニーズに合わせて最適化 |
| ターゲットユーザー | 深層機械学習の専門知識がない開発者や企業向けに最適化 | データサイエンティスト・機械学習エンジニア・開発者向けに最適化 |
| カスタマイズ | 主に事前トレーニング済みのモデルを使用。必要に応じてファインチューニング可能 | 完全に制御でき、必要に応じてモデルをカスタマイズまたはゼロから作成できる |
| 料金体系 | APIコールの数に基づくPay-as-you-go | コンピューティングリソース・ストレージ・その他サービスの使用量に基づく料金 |
| 統合方法 | APIコールを通じて事前トレーニング済みモデルをアプリケーションに統合 | カスタムモデルをアプリケーションに統合し、カスタマイズオプションが多い |
| 必要な専門知識 | 事前トレーニング済みモデルを使用するための基本レベルのML専門知識 | データサイエンスと機械学習スキルの実践的な知識がモデル構築・最適化に役立つ |
| AWSスタックの位置 | 中間層(モデルとツール) | 下層(インフラストラクチャ) |
| インフラ管理 | 不要(フルマネージド) | インスタンス選定・管理が必要 |
Amazon BedrockとAmazon SageMakerはどちらを選ぶべきか
ここでは、Amazon BedrockとAmazon SageMakerはどちらを選ぶべきか、それぞれおすすめのケースを紹介します。
Amazon Bedrockが向くケース
AWS公式ドキュメントでは、以下のようなケースでAmazon Bedrockを選択することが推奨されています。
推論に事前トレーニング済みの基盤モデルを主に使用したい場合 Claude・Llama・Amazon Novaなどの既成の高性能モデルをAPI経由で呼び出し、テキスト生成・要約・Q&A・コード生成・画像生成などの生成AI機能を素早くアプリケーションに組み込みたいケースが該当します。
機械学習の専門チームがいない、またはインフラを管理したくない場合 Bedrockはフルマネージドのため、GPU環境やトレーニング基盤を意識することなく生成AIを活用できます。MLエンジニアがいなくても、アプリ開発者がAI機能を実装できます。
RAGシステムやAIエージェントを迅速に構築したい場合 Bedrockのナレッジベース(RAG)・Bedrock Agents・Bedrock Flowsなどのツール群を使えば、自社データに基づいて回答するチャットボットや、複数ステップのタスクを自律実行するAIエージェントを短期間で構築できます。
多様なモデルを比較・評価しながら最適なものを選びたい場合 Bedrockでは評価ツールを使って複数のFMを比較できるため、ユースケースに最適なモデルを柔軟に選択・切り替えられます。
Amazon SageMakerが向くケース
AWS公式ドキュメントでは、以下のようなケースでAmazon SageMaker AIを選択することが推奨されています。
独自データでカスタムモデルをゼロから構築・学習させたい場合 既製の基盤モデルでは対応できない特殊なドメイン(製造現場の品質検査・医療画像診断・独自言語処理など)のモデルを、自社データで構築したいケースが該当します。
基盤モデルの広範なトレーニング・ファインチューニング・カスタマイズが必要な場合 AWS公式ドキュメントでも「基盤モデルの広範なトレーニング、ファインチューニング、カスタマイズのメリットを享受できるユースケースがある場合はSageMaker AIを検討する」と明記されています。
ML開発からデプロイ・監視までのMLOps全体を管理したい場合 SageMaker Pipelines・Model Registry・Model Monitorなど、MLライフサイクル全体を一貫して管理するMLOpsツールを必要とするチーム・組織に向いています。
データ準備・ETL・分析・ML開発を統合した基盤が必要な場合 SageMaker Unified StudioやSageMaker Lakehouseにより、データの準備から機械学習・SQL分析・BI分析までを一つの環境でシームレスに行いたいエンタープライズ向けのユースケースに適しています。
両者を組み合わせるアプローチ
AWS公式の決定ガイドは、「両方のサービスを組み合わせて生成AIアプリケーションを構築できるシナリオ」があることを明示しています。実際のプロジェクトでは、両者を組み合わせた活用が効果的なケースも多くあります。
代表的な組み合わせパターンとして、SageMaker AIで独自データによるファインチューニングやカスタムモデルの学習を行い、その成果をBedrockのRAGシステムやエージェントと連携させてアプリケーションに組み込むというアプローチが挙げられます。また、SageMaker Unified StudioにはBedrock IDEが統合されており、一つの開発環境からBedrockモデルの探索・生成AIアプリの構築・MLモデルの開発を行える構造になっています。
「最初はBedrockで迅速にPoC(概念実証)を行い、カスタマイズの必要性が明確になった段階でSageMaker AIでのモデル開発に移行する」というステップアップのアプローチも、実践的な選択肢の一つです。
Amazon BedrockとAmazon SageMakerを選ぶ際のポイント
両サービスの選択を迷ったとき、以下の観点から自社の状況を整理することが有効です。
① 「AIを使いたい」のか「AIを作りたい」のかを明確にする 既存の高性能な基盤モデルをアプリケーションに組み込みたいだけであればBedrock、独自のモデルを一から開発・カスタマイズしたいのであればSageMaker AIが基本的な選択指針です。
② 社内の専門スキルを確認する 深層機械学習の専門チームがいない場合はBedrockが扱いやすく、データサイエンティストやMLエンジニアが在籍しているならSageMaker AIのフルポテンシャルを引き出せます。
③ コスト構造の違いを理解する Bedrockはトークン数に基づくAPI課金のため、利用量が読みやすく初期コストを抑えやすいです。SageMaker AIはインスタンス稼働時間に基づく課金のため、大規模・継続的なML開発には効率的ですが、停止し忘れ等によるコスト超過への注意が必要です。
④ 開発スピードと柔軟性のトレードオフを考慮する Bedrockは即時に高性能なAI機能を実装できる反面、モデルの制御範囲はAPIの仕様に依存します。SageMaker AIは完全な制御が可能ですが、モデル開発・インフラ設計に相応の工数と知識が必要です。
⑤ 将来的なスケールと拡張性を見据える 最初はBedrockでスタートし、ビジネスの成長に伴って独自モデルが必要になればSageMaker AIを追加するという段階的な拡張も、AWSエコシステムでは自然に実現できます。
Amazon BedrockとAmazon SageMakerを支援するHBLABのサービス
HBLABは、ベトナムに開発拠点を持つITソリューションカンパニーとして、AWS上でのAI・機械学習開発支援に豊富な実績を持ちます。「自社にはBedrockとSageMakerのどちらが合っているかわからない」「まずPoCから始めたいがリソースが足りない」「SageMaker AIでのカスタムモデル開発を内製化したい」など、フェーズやニーズに応じたサポートをワンストップで提供しています。
Amazon BedrockによるRAGシステム・AIエージェントの構築から、Amazon SageMaker AIを使ったカスタムMLモデルの開発・MLOps基盤の整備、さらには両サービスを組み合わせたエンタープライズ向けのAI開発基盤の構築まで、幅広くご相談いただけます。初回のご相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。
まとめ
本記事では、AWS公式情報をもとにAmazon BedrockとAmazon SageMakerの違いを整理しました。要点を以下にまとめます。
AWS公式の決定ガイドが示す通り、両サービスはAWSのAIスタックにおいて異なる層に位置します。BedrockはAIを「使う・組み込む」中間層のサービスであり、SageMaker AIはAIモデルを「作る・鍛える」インフラ層のサービスです。
自社のAI活用目的・チームのスキル・コスト構造・開発スピードの優先度を整理した上で、最適なサービスを選択することが重要です。「どちらか一方だけを選ぶ」という二択ではなく、段階的な活用や両者の組み合わせも視野に入れると、AWS上でのAI活用の幅が大きく広がります。
導入の方針や設計についてお悩みの際は、ぜひHBLABへお気軽にご相談ください。







