コストを抑えることができる手法として広がりをみせるオフショア開発ですが、近年は特にベトナムが大きな注目を集めています。
そこで本記事では、ベトナムでのオフショア開発の現状や、なぜベトナムが開発先に選ばれているのか解説します。
また、メリット・デメリットや開発企業を選ぶポイントについてもご説明していますので、ベトナムでのオフショア開発を検討されている方は是非参考にしてみてください。
1. オフショア開発とは
オフショア開発とは、アプリケーションやwebシステム、そしてソフトウェアの維持、開発、運営を海外リソースを用いて行う手法です。
以降では、なぜ近年活発になっているのか、そしてクオリティを維持しつつコストを削減できる理由について解説していきます。
国内よりもコストが削減できる
オフショア開発は海外の開発企業に案件を委託するため、現地の賃金水準が適用されます。
そして、アジア諸国は月数万円程度と日本の半分以下であるケースも多く、高単価な国内エンジニアを起用するよりも大幅にコストが削減できる可能性があり、近年活発化している最大の理由の1つとして挙げられています。
日本のITリソース不足
オフショア開発が活発になっている背景としては、日本のITリソース不足も挙げられています。
国内のIT需要はここ数年飛躍的に拡大している一方で、システムエンジニア等の人材供給が追いついておらず、それに伴って1人あたりの賃金水準が高騰してきています。
一方、オフショア開発を提供する国では日本ほど受給は逼迫しておらず、人材の確保が可能な状況です。
上記背景のもと、優秀なIT人材を安価で確保できるオフショア開発は、人材不足解消のソリューションの一つとして活用が増えてきています。
近年開発国の技術力が向上している
近年はAR/VR、人工知能に加えて、NFTや仮想通貨で広く活用されているブロックチェーン等の開発技術も世界的に向上しており、アジア諸国も例外なく主力として活躍しています。
そのため、オフショア開発はコストを削減できるだけでなく、技術面のクオリティも国内と遜色ない水準を維持できる手法として注目を集めています。
2. ベトナムオフショア開発の特徴や現状について
ここまで解説した通り、アジア諸国は賃金水準が安価でありながら、開発技術のクオリティも高いというメリットがあります。
そして、その中でもベトナムオフショア開発は特に注目を集めています。
ベトナム情報通信省の資料によると、ベトナム国内ではIT企業が2015年から2019年にかけて約2倍に増加しており、IT人材も右肩上がりに増えている状況です。
また、今後もその需要は拡大していくことが予想されています。
ここからは、ベトナムのIT分野における現状や特徴をより詳しく見ていきましょう。
国を挙げてIT人材を育成している
ベトナムは近年国策としてIT人材の確保に取り組んでおり、教育機関のIT学科等を支援して、毎年約5万人ものエンジニアを輩出しています。
ベトナム教育産業調査資料によると、ベトナムでは将来的なIT人材の育成を考えてSTEM教育(化学・技術・工学・数学)を推進しています。
本教育方針では、小学3年生からコンピューター学習が必須科目であり、国全体でITリテラシーを底上げさせる意図が見て取れます。
また、在学中に企業レベルのOJTを受講していることもあり、即戦力として通用する技術も備えているポイントも開発国として魅力といえるでしょう。
なお、ベトナムにおける現在のIT従事者は35万人以上とされており、政府は今後その規模を100万人まで増加させる意向を示しています。
親日で勤勉な国民性
ベトナム人は親日で勤勉という特徴があるため、共に仕事をする上でもスムーズにコミュニケーションを取ることが可能です。
また、繊細なタッチや細かいチェックが必要とされる作業にも秀でているポイントもエンジニアに適しているといえます。
さらに、ベトナムは社会情勢が安定していることから、反日デモといったリスクを考慮せずに安心して仕事を委託できるでしょう。
3. ベトナムでのオフショアのメリット
具体的なメリットは、大きく分けて5つ挙げられます。
-
- 新設の外資企業は法人所得税が免除される
- 優秀なエンジニアが豊富
- ベトナムと日本の相性が良い
- ベトナムに海外企業が流入している
- 人件費を抑えられる
ベトナムは親日国家であるため、オフショア開発でよく問題となるコミュニケーションの部分でのリスクが小さいです。
また、既に多くの日本企業がベトナム企業に依頼しており、受注側の企業も日本企業とのやり取りに慣れているのも大きな利点でしょう。
以下では、それぞれのメリットに関して、より詳しく解説しています。
現在開発国を選定している方は、是非参考にしてみて下さい。
新設の外資企業は法人所得税が減免される
ベトナムオフショア開発は以下のように法人所得税が減免されるため、コスト面で大きな魅力があります。
-
- 新たに創設された外資企業がIT部門へ投資を行うプロジェクトに対して最初の4年分のCIT(法人所得税)が全額免除、その後9年間は50%減免
- 経済特区で行われるプロジェクトは、住宅賃貸、技術インフラ提供
これらは、ベトナムのIT分野に対する積極的な支援体制によるものです。
特にインフラの提供が受けられる点は企業にとって大きなメリットといえるでしょう。
優秀なエンジニアが豊富
IT人材の育成に国策として取り組んでいるため、その教育体制に関しても高水準となっています。大学卒業時点で実務レベルにまでスキルを身につけているエンジニアも少なくありません。
また、ベトナムは能力が給与水準に大きく反映される仕組みであることから、全体的に向上心が高い傾向があります。
結果的に優秀なエンジニアが多いという好循環を作りだすことに成功しており、アジア諸国の中でも開発技術が良質というメリットがあります。
ベトナムと日本の相性が良い
ベトナムオフショア開発のメリットは、税制面や品質だけでなく、以下のように日本との相性が良いというポイントも挙げられます。
-
- 親日国である
ベトナムは親日国家であるため、関係づくりやコミュニケーション面でのリスクが小さいです。
国を跨いで開発作業を行う以上は、相手との良好な関係が品質にも大きく影響を与えますので、最初からお互いに良いイメージを持っていることは大きなメリットです。 - 時差が少ない
オフショア開発においてネックになりがちな時差ですが、日本とベトナムは2時間しか変わらず、しかもベトナム企業の方が始業が早いため、ミーティングはもちろん、稼働時間全体を合わせやすくなっています。 - ベトナムの方が祝日が少ない
ベトナムはアジア諸国の中でも祝日が少ない国であり、日本との差は7日程度と大きくなっています。
また、年末年始や夏季休暇といった制度も基本的に存在しないことから、国内エンジニアを起用するよりも多くの開発日数を確保することが可能です。 - 日本からのアクセスが良い
片道6時間というアクセスの良さもメリットの1つであり、フライト自体も1日10便程度*と豊富になっています。
また、就航路線が多いことから、全体的な料金も比較的安価となっており、出張コストを削減することもできるでしょう。
*現在はコロナウィルスの影響で本数が変動している可能性があります。 - 駐在しやすい環境
ベトナムは親日であることに加えて、デモ等が起こる可能性も低く、食べ物も比較的日本人の味覚にマッチしています。
そのため、駐在するには利便性の高い環境であり、それまで海外経験のない方でも安心して過ごせるメリットがあります。 - 出張コストを抑えられる
ビジネスホテルは1泊2,000~4,000円程度、食事も1食数百円からと大変リーズナブルであるため、出張コストを抑えることも可能です。
- 親日国である
ベトナムに海外企業が流入している
ベトナムは近年経済成長が著しく、GDPに関しても1人あたり2,200ドル、ダウンタウンに至っては5,500ドルを超えるほどに所得水準が上がっています。
そのため、世界各国の企業がベトナム市場に参入してきている傾向であることから、ベトナムオフショア開発はそのまま新たなマーケットの開拓に繋がる可能性が高いといえるでしょう。
人件費を抑えられる
人件費の削減はベトナムオフショア開発で享受できる最大のメリットといっても過言ではないでしょう。
具体的には、ベトナムのIT学科を卒業したばかりの新卒で300ドル程度、そして数年程度の経験を積んだエンジニアで400~800ドルと大変安価であるため、大幅にコストを削減することが可能です。
対して日本ではIT人材が年々減少傾向あることから、人件費に関しては上昇傾向にあります。
経済産業省の資料によると、AIやセキュリティ分野で高い技術力を持っている人材に関しては、年収が数千万円のケースもあり非常に高額です。
また、新卒でも高い技術力を持っている場合は年収1,000万円となる事例もあり、ベトナムの人件費と比べるとかなり差があります。
4. ベトナムでのオフショアのデメリット
ここまではベトナムオフショア開発におけるメリットについて解説してきました。
一方、より効果的に活用するためには、デメリットに関しても押さえておく必要があるため、ここからは3つのポイントを見ていきましょう。
納期の遅延
ベトナム人全般というわけではありませんが、比較的納期に対してルーズな傾向があることから、進捗管理に関しては重点的に行う必要があるでしょう。
管理ツールや、優秀な現場責任者・ブリッジSE等を据えるのがおすすめです。
オフショア開発の歴史が浅い
日本がベトナムオフショア開発を活用し始めた歴史は比較的まだ浅いため、業務を進めていく上で、商習慣等の相互理解ができないケースがあります。
また、ベースの知識はありながらも、実務経験に乏しいエンジニアも少なくありませんので、事前に調査してカバーできる体制を整えておいた方が良いでしょう。
コミュニケーションの問題
ベトナムは地域によって英語力に差がある特徴があり、場合によってはコミュニケーションが取りにくいケースがあります。
また、仕様書の翻訳に関してもちょっとしたニュアンスが食い違っていると、成果物の品質低下を招いてしまうでしょう。
5. ベトナムのオフショア開発企業を選ぶポイント
ベトナムオフショア開発を成功させるには、適切な開発企業を選ぶことが重要となります。
ここからは、開発企業を選定するためのポイントについて解説してきますので是非参考にしてみて下さい。
取引実績を確認する
日系企業との取引実績は、発注側である日本の商習慣やプロジェクトの進め方をどの程度把握しているかが図れる指標となるため、開発企業を選定する上で是非とも確認しておきたいポイントのひとつです。
できれば数社(3社程度)と取引実績がある開発企業を選ぶのがおすすめです。
開発企業に日本人が在籍しているか
日本人が在籍している開発企業を選ぶことも重要なポイントといえるでしょう。
コストは上がってしまいますが、円滑なコミュニケーションが図れるだけでなく、プロジェクトの進捗管理や、日本の商習慣に対する理解も得られるため、結果としてパフォーマンスが向上する可能性があります。
エンジニアの在籍数
長期に渡るプロジェクトや大型案件の依頼を検討している場合は、開発企業に在籍しているエンジニアの人数もチェックするのがおすすめです。
ちなみにベトナムでは、多くて500名程度、中には数千名を抱える開発企業も存在しており、人材が多いほど、スポット案件の追加や納期に間に合わせるための突発的な増員にも対応してもらえるでしょう。
6. ベトナムオフショア開発の具体的な価格帯
ここからは、ベトナムオフショア開発の具体的な価格帯について見ていきましょう。
本記事では日本や他のアジア諸国との比較、そしてブリッジSE、PMを雇用した場合の相場を解説していくため、是非参考にして下さい。
ベトナムの平均人月単価とは
ベトナムオフショア開発を検討する際に押さえておきたいのが、1ヶ月あたりのエンジニア単価でしょう。
現在の相場は以下の通りとなっているため、日本の賃金水準とあわせて参考としてみて下さい。
【ベトナム】
平均人月単価* | 割合 |
35~40万円 | 約2割程度 |
30~35万円 | 約3割程度 |
25~30万円 | 約2割程度 |
【日本】
対応内容 | 平均人月単価 | 最高水準 |
ソフトウェア開発 | 約44万円 | 約70万円 |
システム運用 | 約48万円 | 約90万円 |
エンジニアのスキルや地域によって細かく変動しますが、ベトナムオフショア開発の最も多い割合は30~35万円となっており、日本の賃金水準と比較するとそのリーズナブルさが分かります。
なお、その他のアジア諸国における平均人月単価は下表の通りです。
開発国 | 平均人月単価 |
ベトナム | 約32万円 |
ミャンマー | 約20万円 |
フィリピン | 約30万円 |
インドネシア | 約32万円 |
インド | 30~40万円(地域により幅がある) |
中国 | 35万円~40万円(沿岸部と内陸部で異なる) |
タイ | 約35万円 |
最も安価となっているのはミャンマーですが、地理や社会情勢、技術クオリティといった総合的なスペックを考慮すれば、ベトナムのほうがコストパフォーマンスは優れているといえるでしょう。
また、中国やインドはこれまでメインのオフショア依頼先として起用されてきており、全体的に相場が高い傾向にあります。
*平均人月単価とは、エンジニア1人あたりの月額単価であり、IT業界の専門用語です。
ブリッジSEやPMを雇用する場合の単価
ベトナムオフショア開発において、現地の進捗管理や意見を取りまとめて日本側に伝達するブリッジSE、そしてプロジェクト責任者となるPM(プロジェクトマネージャー)を起用した場合の単価は以下の通りです。
-
- 日本語堪能なベトナム人のブリッジSE 30~40万円
- 現地の日本人PM 60~80万円
人材を選定する際は、これらの相場を踏まえつつ、検討してみてみてはいかがでしょう。
7. まとめ
今回はベトナムオフショア開発の現状や特徴、メリット・デメリットについて解説してきました。
オフショア開発を依頼する上では、単純なコストの安さだけでなく、出張や駐在の容易さ、技術クオリティ等も加味して、全体のパフォーマンスを判断することが重要です。
そして、それらをバランス良く備えているのがベトナムであり、国を挙げてIT分野を支援しているポイントも、大きな魅力といえるでしょう。
オフショア開発の開発国に悩まれている方は、是非ベトナムを選択肢のひとつとして検討してみてはいかがでしょうか。
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