近年、システム開発においてPoCプロセスを実施するケースが増えてきています。コロナ禍による世界経済の在り方や世の中のニーズは大きく変化し、これに伴い多くの企業では新規ビジネス検討を余儀なくされています。
そのため、多くの企業が新規事業の開拓や新サービスの開発を検討し始めており、これによりPoC開発が重要視されてきているのです。この記事では、PoCとはどのようなものか? 基礎知識、具体的な手法、そして成功ポイントと業務への関係について詳しく解説します。
PoC開発とは?
PoC開発における「PoC」は「Proof of Concept」の略で、「概念実証」という意味です。 システム開発では、新しいアイデアに実証性があるか、検証する必要があり、この際利用される手法となります。またPoCに基づいて開発を進めることを「PoC開発」と呼びます。プロトタイプ(システムの簡易版)を作成し、実際の導入環境に近い状況で検証するのが特徴です。
令和の現代では、AIやIoTなどの新技術を導入する際にPoCを取り入れることが増えています。検証・評価を繰り返すという特徴を見ると、業務改善などで使われている「PDCA」に似た開発手法です。
DX時代に重要とされるPoC開発
このDX時代にPoCは重要と言えます。DXは単なるデジタル化を表す言葉ではありません。真の目的は、デジタル技術とデータを最大限に活用することにより、新しい価値を創造し、競争上の優位性を獲得することです。
業界の伝統的な慣習や常識にとらわれていると、真のDXを実現することはできません。しかしながら多くの事業主は、何から始め、どこを目指すべきかをまだ知りません。
そこでPoC開発の登場です。DXとは何かを本当に理解できず、あいまいなイメージしかない場合において、具体的に視覚化してシミュレートするのがPoC開発の役割です。
新しいアイデアや技術が企業やクライアントに適しているかどうか、インフラや予算の構築、人材の確保が可能かどうかを実生活で検証するPoCは、の出発点として欠かせないものと言えます。
PoC開発のメリット
DX時代に必要不可欠と言われるPoC開発、そのメリットはどのような点にあるのでしょうか?ここでは大きく5つのメリットについて紹介いたします。
リスク低減
新しい技術を導入して活用、新しいアイデアを形にする場合、それがうまくいくのかどうか誰もわからないことがあります。しかし、そのまま検証せずにプロジェクトを進めると、人的資源や資金が無駄になる可能性が高くなります
その点、PoCは、無駄な資金や投資するリスクを可能な限り減らせる手法です。PoC段階で実現性を検証することで、失敗によるロスを軽減できるのです。
開発コスト削減
新しいアイデアを事業にする場合、多くのコストと労力が必要です。計画が長引けば長引くほど、その負担は大きくなっていきます。
その点、事前にPoCで確認し実現可能かどうかを判断すれば、お金や労力を無駄にする必要がないため、コストを削減できます。また実現可能かどうかだけでなく、検証工程での長期計画など、どれだけの工数、コストが必要かなどを検証でき、より効率のよいプロジェクト計画立案につなげられます。
実現性を事前に把握できる
実現可能性を知ることは、アイデアを形作る上でのリスク回避にもつながるため、大きなメリットと言えます。
アイデアを形にするため、前に進めることは重要ですが、失敗すると元に戻すことは不可能です。新システムを開発するときも同じことが言えます。たとえば、「技術的には可能ですが、作ってみたら使い物にならなかった」などの状況を回避できます。
費用対効果の事前確認
経営陣としては、実現するのにどれだけの投資対効果が得られるのかをある程度予測できない限り、GOサインは出さないでしょう。アイデアを形にしたところで投資を回収できるほどの効果が見込めないのであれば実施すべきではないのです。
PoCを実施することで、事前に確度の高い予測ができます。PoCはその計画を実施すべきかどうか?判断するための実証実験の位置づけとして利用できます。
スムーズな実施可否判断が可能
PoC開発では費用対効果や実現性を確認できるため、その結果を用いて実行すべきか否かを明確に判断できます。
PoCなしで投資決定を行うことはリスクがあり、AIなどの新しいテクノロジーには前例がほとんどないため、それらが効果的であるかを読み取るのは困難といえるでしょう。
PoCを実行することで小規模レベルでの結果を提示できるため、それを元に実施可否判断の意思決定がよりスムーズになります。
PoC開発のデメリット
これまで実行したことのない計画を実施に移すにあたり多くのメリットをもたらすPoC、そんなPoCにデメリットはないのでしょうか。少なからずデメリットはあります。
利用するシーンによってはPoCの良さを生かせず、むしろデメリットになるケースもありえます。ここでは2つのデメリットについて解説いたします。
ケースによってはコスト増になる可能性あり
PoC開発は、新しい理論やアイデアを収益化できるかどうか、調査するフェーズです。場合によっては、それが海からのものか山からのものかを知らずに、手探り状態からの開始となる場合もあるでしょう。
前例がないので、PoCを繰り返しても答えがわからず、誰もが問題を解決できるかどうかわからない可能性があります。その場合、再度机上検討に戻り、PoCをやり直すケースも出てくるでしょう。
そしてそのプロセスを何度も繰り返すケースもあるかもしれません。そうなった場合、予想以上に時間がかかり、開発自体が行き詰まった場合、無駄なコストしか残らない可能性があります。
PoCは何でも結論が出る、というわけではありません。内容によってはこれがデメリットに働くケースもあることを理解しておきましょう。
ケースによっては担当者の負担が増えることも
さらに明確な結果が得られず、試行錯誤を繰り返して長期間が経過すると、上司からのプレッシャーや焦りにより、担当者が疲弊してしまう可能性もあるでしょう。
新しいテクノロジーや開発への期待が強ければ強いほど、物事がうまくいかなかったときの失望は大きくなります。この場合、経営者や経営幹部のかじ取りがよほどうまくなければ、社内の空気が悪くなる、担当者のモチベーションが下がる恐れがありますのでご注意ください。
PoC解発の進め方
ここまでPoCのメリット、デメリットについて解説してきました。DX時代に必要とされるPoC手法ですが、次に気になるのはその手順ではないでしょうか。ここからはPoCを進める手順について解説しましょう。
①企画
厳密に言えば、企画はPoCの前段階といえます。企画を立てる段階で効果や技術的な実現性は不明瞭であるケースは多々あるものです。この段階でPoCを実施するか否かを検討することになります。
②効果・効用の検証
企画完了後、PoCによる検証が開始されます。どんなシステム開発をするにしても、プロトタイプ開発は欠かせません。
プロトタイプが完成したら、その効果や有用性を検証するために、「製品を作る意味があるか」「役に立つか」などの効果を確認します。
③技術的な実現性の検証
次の段階として、「システムが技術的に実現可能かどうか」を検証します。たとえば、システム開発で「旅行に役立つ翻訳アプリ」を作成する場合、「すべての言語を翻訳できるか」「海外で使えるか」を確認します。
開発では、システムを利用するユーザーの協力が不可欠です。例えば、データ分析システムの場合、実際にデータを分析している会社の担当者に協力を依頼することが必要です。
また、無人店舗に設置する場合は、実際にお客様にご利用いただきましょう。つまり、PoC開発では「実際の使用環境に極力近づけて検証する」ことが重要です。
④システムの仕様や課題の洗い出し
検証が完了したら、次はシステムが抱える課題を整理するプロセスに進みます。周囲の意見を参考にし、市場のニーズを考慮しながら、システムをブラッシュアップしていきます。
例えば、ユーザーの視点で意見を聞くなどの方法があります。重要なのは「問題の特定」「修正」「ユーザーテスト」を繰り返すことです。これを繰り返すことで、システムの有効性と実現可能性をさらに向上させます。
⑤要件定義
PoC検証後、システムに必要な機能を要約した要件定義を実施、要件定義書を作成します。また要件定義書に基づいて、開発予算と期間の決定も行います。
通常の開発工程である企画と要件定義の間にPoCは実施されることになるのです。
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システム開発における要件定義とは?作業内容や手順について解説
⑥設計・実装
設計・実装は、要件定義に従ってシステムの外部設計と内部設計を実装するプロセスです。すべてのシステム画面と内部プログラムが完成したら、それらを実装してテスト工程に進みます。これは、プログラマーとシステムエンジニアが一番活躍する工程です。
⑦テスト・リリース
テストプロセスは、単独機能、統合機能双方をテスト、動作確認します。全テストが完了すれば、ようやくシステムリリースできます。システムによっては、実際の設置環境で問題なく使用できることを確認するために「運用テスト」を実施してリリースする場合もあります。
PoC開発は一連のステップですが、会社や開発プロジェクトによって順序が変わる場合があります。万が一、実現性、有効性の面で問題が発生した場合、企画に戻り再度検討します。
PoC開発を成功させるポイントは?
ここまでPoCプロセスや開発工程内での位置づけなどについて詳しく解説しました。それではPoC開発を成功させるためのポイントはどのような点にあるのでしょうか。ここでは成功させる5つのポイントについて解説します。
ユーザー目線による検証
PoCに限らず、開発現場で重要な点は「ユーザーメリットの追求」であると言っても過言ではありません。ユーザーが望まないものを作ったとしても、それは利益につながらないでしょう。
たとえば、ユーザーがたくさんの本を持ち歩くことを避けたいが、ゲームカセットのようにソフトを1つずつ交換する必要がある電子書籍を作成する場合、ヒットしないでしょう。
多少重くとも1つの仕組みで作る方がユーザーニーズにはあっているのではないでしょうか。このようにして、ユーザーが本当に望む形になっているかどうかを確認する必要があります。
効果の明確化
新製品投入は企業側のメリットが明確でない限り、投資は難しいはずです。これは、新製品導入が企業にどのような利益をもたらすかわからないためです。
新技術導入のメリットを的確に伝えるためには、具体的な数値やデータを示すことが効果的です。例えば「この制度を導入することで、〇%のコスト削減と、年間〇億円の利益が期待できる」という形で発表するとよいでしょう。
大事なのはビジネスでどう生かせるか?
PoCは、実証実験することだけが目的ではありません。新しいテクノロジーをビジネスに結び付けないとそれは完全には導入されません。
「PoC疲れ」という、PoCのみを行い、実際の導入に移行しない状況があります。「PoC疲れ」を引き起こさないためには、世の中の課題に目を向けその解決策と新技術を結び付ける必要があります。
検証は実際の現場と同一環境下で
PoC検証は、実環境または同一の環境で実施しましょう。異なる環境では正しい結果は得られません。さらに目的によっては、場所だけでなく、時刻・天気・気温などの要素も実環境に合わせる必要があります。
システムの動作やユーザーの行動に影響を与える要因をあらかじめ把握しておきましょう。
検証する場所の確保が難しい場合は、検証用の仮想環境を用意しておくことが必要です。万が一、データが不正確な状態で開発が進んだ場合、データ上で実行可能にもかかわらず「システム開発に失敗」する可能性があります。
できるだけ小さく始める
本格的なシステム展開の準備として、PoC検証はできるだけ小規模から始めましょう。PoCは単なる検証作業であるため、大きすぎたりコストがかかりすぎたりするのはよくありません。大規模なPoCが失敗すると、開発期間、コストが増大し、関係者のモチベーションにも影響します。
さらに、PoCの目的は「システムとテクノロジーの実現可能性を知ること」を忘れないようにしましょう。PoCの実装自体の目的があいまいになると、本来の目的があいまいになります。 PoCを開発するときは、本質を見極め、「より良いシステムを開発する」ことが重要です。
まとめ
PoCとは、新しいサービスと技術開発の「実現可能性」「有効性」の検証を目的とします。実際にPoCで開発することにより、費用対効果を明確に判断し、システムを導入するかどうかをスムーズに判断できるなどのメリットがあります。
ただPoCには費用と時間がかかることを忘れてはいけません。時間とコストをかけすぎないように、デモンストレーションの前にプロトタイプの開発を実施しましょう。
なお、どの開発手順を選択し開発を進めるか、その判断は非常に難しく、多くの経験を積んだ開発会社に委託することをおすすめします。どの開発会社を選ぶべきか悩んでいる場合、ぜひ株式会社エイチビーラボにお任せください。
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